有機野菜はひ弱で脆い?延命措置を繰り返す理由とは?

前章では「肥料と農薬は一体」であることについて述べてみました。この章では自然な植物のあり方と不自然な植物との違いを見ることで、安全な野菜について考えてみましょう。
■目次
1、植物は虫やに負けない!
2、守護神となるのはこの機能にあり!
3、弱い野菜はこのようにして作られる!
4、野菜を守る最後の防衛手段で延命措置!?
5、海の汚染と田畑の汚染・生命の原理原則は何!?
肥料は虫や菌を呼び込む温床になる。
有機であれ、化学であれ、肥料を使えば使うほどに虫や菌にたかられやすくなる。虫や菌は肥料過剰、アミノ酸過剰な野菜を目がけてやって来るものだからです。
でも、虫や菌がどれだけ集まってきたところで、植物が健全な状態であるならば問題は生じません。
”備えあれば憂いなし”
植物には外敵の侵入に負けない幾重にもわたる防御機能が備わっているからです。どれだけ虫や菌がやって来ても、食べられなければ問題にもならない。
”矢でも鉄砲でも何でも来い!”
自然の植物には外敵に負けないだけの備えが本来備わっているのです。
■植物の防御機能
植物の防御機能の中で、中核となるのが「細胞壁」です。”食物繊維”ともいわれているのですが、強度は頑丈そのもの。
虫や菌がどれだけ来ても跳ね返すだけの強靭さと厚さを備えているものなのです。細胞壁の強さは人が食べても消化できず、そのまま排出されてしまいます。
牛のように4つの胃袋を備え、さらに微生物の力を借りてようやく消化吸収できるほどのもの。
細胞壁は硬くて強い頑丈な壁なのです。
当然のことながら虫が束になって襲ってみても硬くてかじれない。仮にかじれても消化できない.。菌は分厚い壁に阻まれ、細胞内には侵入できない。こうした頼もしい備えが植物にはあるのです。
でも、窒素肥料をたくさん与えてしまうと、この防御網は崩れ去ってしまう。
細胞壁が弱く、脆くなってしまうのです。
窒素肥料の過剰により植物の体内でバランスが崩れてしまい、鉄筋コンクリートであるはずのものがベニヤ板のようなものに成り果ててしまうのです。
■弱い作物のメカニズム
植物の健康な成長は、「光合成」を起点に行われます。
理科の授業の復習なのですが、根から水分、葉から二酸化炭素を吸い上げ、葉の葉緑体という場所で、「酸素と糖分」を作り出すのが光合成です。
酸素は使う分以外は空気中に放出されますが、糖分は体内で様々な用途に使われます。根から吸い上げられる窒素やリン酸、カリなどの養分を糖と結合させる。そのことで植物が生きるのに必要なタンパク質や脂質などを作り出しているのです。
そしてこの糖分は細胞壁の材料にも使われます。細胞壁は糖が3000~4000個も連なりひしめき合うことで、強靭な壁を作り上げているのです。
強くて硬い細胞壁は糖のカタマリ。健全に成長している分には何の問題もありませんが、大量の窒素肥料を与えてしまうと、糖のバランスが乱れてしまう。
光合成で作られた糖分は肥料の窒素分にばかり結びついてしまうのです。エコヒイキするかのように窒素肥料の分解ばかりに糖が使われてしまう。
あたかも磁石のN極とS極のように窒素ばかりに吸い寄せられてしまうのです。
そうなると細胞壁に必要な糖が回ってこない。糖がなければ深刻な材料不足を起こしてしまいます。
もちろん作物自身も細胞壁が薄くなれば生命の存続にかかわってしまうので、懸命になる。茎を伸ばし、新葉をたくさん繰り出すことで光合成をする場所を確保しようと必死になるのです。
でもそこにまた窒素肥料を入れられてしまえば、糖はまたその分解ばかりに使われてしまう。細胞壁の構築に必要な糖分は一向に供給されないままとなってしまうのです。
■最後の手段で防衛
こうして糖のカタマリであるはずの細胞壁は弱体化の一途を辿っていく。窒素肥料を与えれば与えるほど、細胞壁は弱く脆くなっていくのです。
そうなれば虫や菌からすればシメたもの、絶好のチャンス到来です。大好物のアミノ酸がたくさんあり、しかも相手は無防備。
ここぞとばかりに押し寄せてあっという間に蹂躙していく。こうして野菜は虫や菌のなされるがままになってしまうのです。
でも、そのまま放置を続ければ野菜を出荷することができなくなってしまいます。野菜の方はもはや自分で防御するだけの設備も力もないので、自衛力はゼロ。
そうなると頼るべき最終後の手段になるのが、「農薬」です。
たくさんの農薬を使って虫や菌を殺さざるを得なくなる。こうして何度も農薬を散布して、どうにかスーパーの棚に並べられるようになるまで延命措置を施す。
殺虫剤・殺菌剤といった農薬を何度も駆使して、見てくれだけは何とか保った野菜が売られることになるのです。
農薬を使うことの意味は、自然界では生き残れない生命であることの証。自然淘汰されてしまう弱い生命であることを意味します。
人が肥料を与えることで作物を甘やかし、健全な成育を阻んでしまう。生命の存続に必要な機能を充実させることができなくなってしまう。
肥料を使えば虫や菌を引き寄せ、野菜を弱くて脆いものにしてしまうのです。生きものの原理原則は、
不足には強いが過剰には弱い
有機野菜は健康で安全、そう無条件には言えないわけなのです。
■海の汚染と陸の汚染
赤潮、青潮、アオコ、ヘドロ。
これらは海や川の汚染として知られますが、その原因は過剰な栄養。植物の三大肥料のうちの2つ、窒素やリン酸が大量に流れ込むことで起こるものなのです。
これらの栄養分が大量に流れ込めばそれをエサにする植物プランクトンが増殖します。そうなればそれを捕食する動物プランクトンだって増えていくのです。
水の中は飽和していき酸素が減少し、“死の海”と化していきます。余った養分はヘドロとなって底に沈んでいきます。悪臭を漂わせ、水質を汚染し、漁業に深刻なダメージを与えてしまう。
私たちは海や川のこうした汚染には敏感ですが、田畑に大量に使われる肥料には全く鈍感と言わねばなりません。肥料に対する規制は弱く、ほぼ野放しの状態であるのが現状です。
食の安全を大切に考える私たちはこうした仕組みを理解して、本当に自然で安心して口にできる食材を選ぶ必要があります。
この章では、農薬を使わざるを得ない本当の理由を「肥料」に着目して述べてきました。
次章では窒素過剰な野菜が引き起こす、問題を把握し、実際にどのような野菜を選ぶの安全で自然なのか?
今日からのお買い物に使える実践・野菜の見分け方を伝授していきます。
>>次章・第六章へ
『有機野菜でも腐敗する理由は?全てをダメにする元凶はコレ!』
前章へ:有機野菜は農薬とサヨナラできない!?紅葉に学ぶ自然な野菜のあり方とは?
■この章のまとめ
・有機も化学も肥料を使えば防御力も低下し、農薬依存になる ・糖が窒素肥料の分解ばかりに使われて細胞壁が弱くて脆くなる ・過剰な養分供給が作物を弱らせ農薬に依存せざるを得なくなる |
■参考文献