有機野菜でも腐敗する理由は?全てをダメにする元凶はコレ!

前章では、野菜の防御力を肥料が弱らせてしまうことについて述べてみました。
この章では野菜が本来持つ力を知り、日々口にするべき安全な食材選びのポイントをチェックしていきましょう。
■目次
1、野菜の腐敗が意味するものは!?
2、健康な野菜と不健康な野菜の違いとは!?
3、虫や菌にとって最高の環境が整ってしまう!?
4、外敵を阻む最強の三重構造を把握!虫や菌が最悪なのは!?
5、お店で健康な野菜を買うための選び方の実践例はコレ!
6、図体ばかりが大きくて足腰が弱い!?ひ弱な野菜の現状は!?
7、土の中の生態系も乱してしまう!本当に安全な野菜を手にするために
買ってきた野菜が冷蔵庫の中で腐ってしまう。
ドロドロに溶けて周囲に悪臭を放ちながら。よく目にする光景です。
でも、
「腐っちゃた、あ~あ」
なんて思っていませんか?
なぜなら野菜が腐るのは明らかに不自然な現象だからです。
野山の植物を見ても、全ては色づきやがて枯れていきます。野菜だって植物、本来は枯れていくはずなのに腐ってしまう。
腐るのは不自然なこと、そう考える必要があるのです。
自然の植物が悪臭を放ちながらドロドロに溶けて腐っている。そんな光景はどこにも見当たりません。
植物である以上は枯れていく、それが本来の姿といえるのです。
■野菜が腐る症状は!?
野菜が腐る現象は「軟腐病」といわれます。
軟腐病は冷蔵庫の中でも、常温でも、畑の中でも起こります。細胞の中に菌が入って、内部をドロドロに溶かしてしまう症状です。
でも、本来菌は野菜の細胞内には入れないものなのです。実際に健康な植物の細胞内に菌は見当たらないものだからです。
厚くて硬い「細胞壁」に阻まれてしまうため、菌は本来、細胞内には入れないものなのです。
なぜ入れないはずの場所に菌は入り込んでしまったのでしょうか?
■作物の弱体化と菌の侵入
前章の復習になりますが、植物は虫や菌などの外敵から身を守るために「細胞壁」を備えています。
細胞壁は糖分が連なり密集することで、硬くて厚い壁を作り上げているのです。
細胞壁の糖分は光合成によって作られますが、窒素肥料を多投すると糖はそればかりに引き寄せられてしまいます。窒素をアミノ酸に変えるために糖分は優先的にあてがわれてしまうのです。
窒素肥料をたくさん与えれば与えるほどに、細胞壁は脆くなる。壁の構築に必要な糖分が窒素肥料の分解ばかりに使われてしまうので、材料を確保できなくなるからです。その結果、野菜の防御力は低下してしまうのです。
そうなると虫や菌にとっては最高の環境が整います。大好物のアミノ酸を豊富に含んだ、防御力の弱い野菜がたくさんあるからです。
こうして”我先に!”と馳せ参じる。
虫にかじられ、かじった後から菌が細胞内に侵入して内部をドロドロに食い荒らしてしまう。「軟腐病」は、このようなプロセスで起こると考えられているのです。
■弱体化のプロセスは!?
細胞壁は三重の構造になっていて、
「セルロース、ヘミセルロース、そしてリグニン」
と呼ばれる、それぞれ形の違った”糖のカタマリ”で構成されています。
細胞壁はよく鉄筋コンクリートの建物に例えられますが、鉄筋部分がセルロース、鉄筋を補助する針金がヘミセルロース、そしてコンクリート部分がリグニン。
このように説明されるのです。
どれも強力な物質なのですが、中でも虫や菌にとって最悪なのが「リグニン」。
リグニンは細胞壁の中でもとりわけ硬い物質で、強酸や強アルカリを浴びせてもビクともしない。菌の分泌液などものともしない、抜群の強度を誇るものなのです。
リグニンは地球上で最も分解が難しい物質の1つといわれ、これが地下に積み重なってできたのが「石炭」です。数億年前の太古の植物が今日まで形状を保っている。それほど分解が難しいものなのです。
自然界の植物が虫や菌に侵されにくい理由は、リグニンを含んだ三重構造の細胞壁が強靭だからと考えられるのです。
リグニンは人参や大根、ゴボウなどに多く含まれますが、含有量の少ない野菜もあります。でもそれは平常時に少ないだけで、キケン発生!となればすぐさま出現する。
細胞壁にキズを受けると病傷害リグニンが生成される現象が見られるのです。また果実などに多く含まれるペクチンも損傷を受けるとリグニンが作られることも観察されています。
まさに虫や菌にとっては最強の壁なのですが、窒素肥料を与えれるとそこに変化が生じてしまう。
窒素肥料を与えるほどにリグニンは減少していく
しかもただ減るだけではなく、著しく減少してしまうのです。
■手に持った感覚を!
健康な作物は細胞内に菌を寄せ付けませんが、肥料をたくさん使った野菜は侵入を許してしまう。
悪臭を放ち、ドロドロに溶けて腐ってしまう野菜はたくさんの窒素肥料が投入された証と言えるのです。肥料の多投は腐りやすい野菜を作ってしまうのです。
腐る野菜は反自然、それは分かった。枯れるタイプの野菜を食べたいけど、実際に
”どう選べば良いの?”
そう思われるかもしれません。
それなら、「重さ」に注目して選んでみると良いでしょう。
お店で野菜を買う際は見た目よりも手に持った感覚が重いものを選ぶのがコツになります。
細胞壁が充実した野菜は見た目よりも、手にズシリと来る感覚を覚えるもの。人間でいえば骨密度が高い、それと似たような感じになるからです。
細胞壁は全植物の乾燥重量の約60%を占めるほどなので、重く感じる野菜は自然のリズムで健全に育った証。細胞壁も強固に構築された野菜と考えることができるのです。
※水分が抜けて細胞壁がミイラ化した大根の様子
野菜に包丁を入れた時に手ごたえがガチッとくるのは細胞壁が切断された音。切る際は音や手ごたえにも敏感になっておくと、より自然な食材への感覚が研ぎ澄まされてくるかもしれません。
■栄養価も減少する!
また窒素肥料を多投するとビタミンや糖分の少ない、水っぽい野菜になります。
野菜の味を決めるのはビタミンや糖の多さなのですが、窒素肥料を多く与えた野菜はこれらの成分を蓄積することが難しくなります。
窒素肥料の分解ばかりに多くの糖分が使われてしまうからです。
私たちが野菜に期待するビタミンCも糖から作られるものなので、窒素過多の野菜は栄養が少なく味の薄い、水っぽいばかりの野菜になってしまいやすいのです。
■足腰も弱くなる!
他にも窒素肥料をたくさん使うと、根の弱い野菜ができます。
植物は自分に必要な養分を根が探し出し吸収しますが、人が肥料を与えると地中深くまで根っこを伸ばす必要がありません。
上げ膳・据え膳状態でごちそうをもらえるので、根の充実が疎かになる。そうなると、ちょっとの風でも倒れてしまいやすい。
肥料の効果で上半身は大きくなるけど、足腰が弱い。そんな倒伏しやすい野菜になってしまうのです。
※稲穂の重みに耐えられない倒伏稲
■土の中の環境も破壊!
植物の三大肥料は「窒素・リン酸・カリ」ですが、リン酸は実を大きくするために使われるもので、別名「実肥」ともいわれます。
でもこのリン酸は土の中に少なく見積もっても1000年分を超えるほどの埋蔵量がある。そう言われるほど豊富な天然資源でもあるのです。
でもそのリン酸も天然窒素と同じで、植物はそのままの形では吸収できません。土の中の、
「菌根菌」
と呼ばれる微生物に加工してもらい、根から吸収できる形にしてもらう必要があるのです。
でも窒素肥料を与えると、なぜかこの菌根菌は働かなくなってしまう。土に窒素が多くなると、菌根菌は活動をやめてしまうのです。
肥料は菌根菌の活動をサボらせてしまう。そうなると天然のリン酸を使うことができないので、有機であれ、化学であれ、肥料に頼らざるを得なくなる。
これは大豆などマメ科の植物に寄生して土の中の窒素を植物が吸える形に変えてくれる「根粒菌」も同じ。窒素肥料を多く与えた土では根粒菌も菌根菌も活動を止めてしまうわけなのです。
肥料を使えば使うほど植物の生理は狂い、土の中の生態系も狂ってしまうのです。
有機であれ、化学であれ、安全な野菜と肥料とは共存できない。
私たちは肥料を使わない・農薬を使わない野菜を選ぶ必要がある、それこそがこれからの食の主流になるだろう。そう確信しつつ、このブログを書いているわけです。
以上、この章では、野菜が腐る理由から細胞壁の構造、そして根の弱体化、さらに土の中で働く微生物たちの活動について述べてみました。
次章では葉物野菜を買う際の注意点についてお話ししたい思います。
>>次章・第七章へ
■この章で学んだこと
・野菜が腐るのは菌によるもの |
■参考文献